COLUMN コラム
連載コラムVol.20 山の記憶を読む~第2話 地山の中を覗く~

第1話で、突然「1.5km/s」という数字が出てきた。弾性波速度である。もちろん、何のことか分からない読者も多いだろう。
トンネル技術者にとって、弾性波速度は珍しい数字ではない。しかし、一般の方からすれば、「弾性波速度、1.5km/sって、何なの?」というのが正直なところではないだろうか。
そこで今回は少し寄り道をして、地山の中をどのように調べるのか、説明してみたい。
地山の中は見えない。これが、トンネル技術者にとって悩ましいところである。
例えば、建物であれば、外観を見ることである程度のことは分かる。車であれば、ボンネットを開ければエンジンを見ることができる。ところが、地山はそうはいかない。「ちょっと中を見せてください」と言っても、無理なのである。
そこで、さまざまな地質調査を行い、その結果をもとに、地山の中を推定する。まず行うのが文献調査である。既往の資料をひも解き、地山の概要を把握する。続いてボーリング調査。地山に細い孔を掘り、岩石を取り出す。採取した岩石を観察し、地質や岩質、ひび割れ、風化の状態などを調べる。さらに、岩石を試験機にかけ、どのくらいの力で壊れるのかを測定する。
ただし、ボーリング調査にも弱点がある。地山全体を把握するには、あまりにも「点」の情報なのである。費用を考えると、延長476mのトンネルの周囲すべてをボーリングするわけにはいかない。
そこで登場するのが、弾性波速度の測定である。
岩盤の中を伝わる波の速度を測ることで、目に見えない山の状態を広い範囲で推測する。人間でいえば、健康診断に少し似ているかもしれない。血液検査だけでなく、レントゲンや心電図など、いくつかの検査を組み合わせて体の状態を判断する。地山も同じだ。岩石の強度を測り、ひび割れの状態を調べ、弾性波速度を測る。いくつもの情報を重ね合わせることで、見えない地山の姿が少しずつ浮かび上がってくる。
今回の地質調査では、廃線となった鉄道トンネルを拡幅するという条件を生かした。すでにあるトンネルの中から作業ができるのである。その利点を活用し、現況トンネルの周囲にボーリング調査を行い、孔内で弾性波速度を測定した。
すると、面白いことが分かった。
既設トンネルの周囲に、弾性波速度が1.5km/s以下の低速度領域が存在していたのである。
弾性波速度が1.5km/s以下の領域では、岩盤の強度や変形係数が低い傾向にあった。平均すると、これらの値は1.5km/sを超える領域に比べ、4割程度低かったのである。
どうやら、弾性波が遅い場所には、それなりの理由がありそうだ。一方、地山の弾性波速度は、おおむね2.0km/sだった。地質は新第三紀の堆積軟岩で、砂岩と泥岩が互層をなしている。同じ地質の中で、なぜ弾性波速度の異なる二つの領域が現れるのだろうか。
そこで私は、弾性波速度が1.5km/s以下の領域を、ひとまずEDZ、すなわち「ゆるみ領域」と仮定してみた。
この「ひとまず」というところが大切である。
トンネル技術者は、調査で得られた数値一つで地山の状況を決めつけてはいけない。数値は重要な手掛かりだが、それだけですべてが分かるわけではない。数字がそう示しているなら、今度は現場で確かめる。
そこで工事中のトンネル切羽に向かった。
切羽、一般の方には、これも少し変わった言葉かもしれない。トンネルの一番奥、つまり掘削の最前線のことである。
弾性波が「ここが緩んでいるよ」と教えてくれた場所。実際の切羽では、本当にそうなっているのだろうか。
いよいよ、数値と現場の対決である。
この記事を書いた人
専務取締役田村 智樹



