ダイシン設計株式会社|札幌の総合建設コンサルタント

COLUMN コラム

連載コラムVol.11 珍道中

連載コラムVol.11 珍道中

 読者の皆様もご存知かと思いますが、去る1月25日~26日、冬型の気圧配置が強まり、札幌は大雪に見舞われました。25日は一日中除雪に追われていました。

 翌26日には東京への重要な出張が控えていました。この悪天候の中での出張をどう乗り切るか。前日より思慮していました。

 この出張はキャンセルできない重要なものでした。幸い飛行機は通常通り運航されていたものの、問題は空港までのアクセスでした。

 空港アクセスの条件は厳しいものでした。飛行機の出発時刻は10時、公共交通機関は全て運休、唯一、高速道路だけが通常通り供用されていました。

 このような状況下では、空港へのアクセス方法は高速道路を利用する車両移動に限られ、自家用車かタクシーかの二者択一となりました。自宅前および周辺道路は除雪されておらず、自家用車では立ち往生する可能性が高いため、タクシー利用を選択しました。

 飛行機の出発時刻から逆算すると、空港到着は9時30分が限界です。道路の渋滞状況とタクシーを拾うのに要する時間を考慮し、日の出前の6時30分に自宅を出発することにしました。

 まだ薄暗く降りしきる雪の中、私はタクシーアプリを確認しながらも、流しのタクシーを探して幹線道路を最寄りのIC方向へと歩き始めました。雪との格闘が約1時間続いた7時30分頃、一台の回送中のタクシーを発見し、半ば強引に停車させることに成功しました。

 窓越しに「新千歳空港まで」と行き先を告げた瞬間、ドライバーの目がキラリと光り、すぐにドアが開きました。この時、私もドライバーも、この出会いが後に私たち二人の運命を分ける重大な場面になるとは、まだ知る由もありませんでした。

 ICまでの道のりは渋滞が継続していましたが、ドライバーはいたって上機嫌でした。8時20分頃ICに到着し高速道路に入ると道路はスムーズに流れていました。ここで私はある異変に気付きました。料金メーターを凝視すると、これまでの走行距離、走行時間から考えると表示されている料金が明らかに安いのです。しばらくの間、メーターに注目していました。ドライバーは相変わらず上機嫌でした。やはりメーターの上がり方が遅いようでした。

 ほどなくタクシーは新千歳空港に到着、時刻は9時10分、無事に間に合いました。ドライバーが精算行為に入った瞬間、タクシーの車内に静寂が広がり、時間が止まったかの様な緊張感が漂いました。次の瞬間、ドライバーが大きな声で「このメーターぶっ壊れてる!」と怒りに満ちて言い、私の顔を怪訝そうに見つめました。両者の明暗が分かれた瞬間でした。表示されたタクシー料金は、一般的な料金の1/3以下でした。具体的には、ススキノから私の自宅までより安い料金でした。

 私は内心の喜びを抑えつつ、淡々とメーターに表示された金額で切られたチケットをドライバーに渡し、領収書を受け取りました。そして何事もなかったかのように、足早に空港へと向かいました。

 古来より「人間万事塞翁が馬」という言葉がありますが、この日の出来事は、私にとっては思わぬ幸運となり、ドライバーにとっては予期せぬ不運となりました。このドライバーにとっては、今年が60年に一度の丙午の年に当たることから、差し詰め「人間万事塞翁が丙午」と言いたくなる出来事だったのではないでしょうか。

 一台のタクシーに乗り合わせた二人の運命が、メーター一つで明暗を分けた珍道中は、物事の表裏一体さを如実に表現した物語となりました。

 東京には無事に到着いたしました。札幌の大雪とは打って変わって、こちらでは穏やかな日常が広がっていました。出張先での打ち合わせでは、この大雪とタクシーメーターの珍事を話題にしたところ、場の雰囲気が一気に和みました。

 振り返ってみれば、大雪という災難から始まった一連の出来事は、私にとって思わぬ幸運をもたらし、ドライバーには予期せぬ不運となりました。しかし、このドライバーにも、また別の形で幸運が訪れているかもしれません。

 時に私たちは自分の力ではどうにもならない状況に遭遇します。しかし、その瞬間の判断と対応が、後の明暗を分けることがあります。今回の珍道中は、私にとって運命の偶然性と人生の面白さを再認識する貴重な経験となりました。

この記事を書いた人

専務取締役田村 智樹

専務取締役 田村 智樹
コラム一覧

他のコラムを見る

  • 昔の野球少年
    役員コラム

    昔の野球少年

  • 変わる夏、変わる未来
    役員コラム

    変わる夏、変わる未来

  • 意外と簡単な確定申告
    役員コラム

    意外と簡単な確定申告

  • 屯田兵の血を引く技術者として
    役員コラム

    屯田兵の血を引く技術者として

recruit